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【特集】業界の「人材確保」について考える ~〝組織改革〟こそが最大のカギ

中堅幹部の再教育

パチンコ業界における〝人材確保〟の問題は何も採用にかぎった話ばかりではないはずだ。いくら経験を積んでも次のポストが見えない状況は、中堅社員たちのモチベーションを下げていく。仕事をいかに自分自身の成長につなげるか。パチンコホールやアミューズメント施設の従業員および幹部社員の人材育成も担うP&Mアカデミー関東(以下、P&M)では、新人の研修にくわえ、中堅幹部の再教育にも力を入れている。

「座学が中心だった中堅幹部の研修を2017年度から大きく見直し、講師が与えた課題を受講者同士で話しあっていく形式にあらためました。つまり、講師の言葉をただ聞きつづけるスタイルではなく、自分たちの頭で考える。と言うのも、業務経験が長い中堅幹部ほど日常の仕事がルーティン化してしまい、売り上げが伸び悩んでも改善すべき点に気づきません。とくに複数の企業から集まってきた受講者たちとさまざまな意見を交わしあっていくことが何より大切だと考えています」(事務局長兼専任講師・富岡淳氏)

P&Mでの研修体系は「一般社員」(パート・アルバイトを含む)向けと「幹部社員」向けとにわかれ、「一般社員」は〝基本接客〟や〝OJTトレーナー養成コース〟などを段階的に学び、「幹部社員」を対象としたコースも「リーダー養成」、「チーフ養成」、「マネージャー強化・養成」の3段階に分類されている。受講回数はコースによって異なるが、「リーダー養成」コースだけでもカリキュラムの内容はコミュニケーション能力の向上およびリーダーシップ、業界動向、法令、計数管理までと幅広い。自身で問題解決をはかる取り組みはもちろんのこと、現場で生かせる新しい知識を身につけ、仕事へのやりがいや自分の成長が実感できる教育をめざしている。P&Mの代表理事である安益濬氏(安富産業代表取締役社長)が言いそえる。

「ホールの運営を任された店長たちのおもな仕事は〝判断〟です。右肩上がりの状況ではないからこそ、生き残りをかけた個々の判断力が問われているのだと思います。また、中堅幹部の再教育は、次世代の育成にとっても重要です」

企業としての将来を見据える

パチンコ業界の生き残りもさることながら社員の成長は経営の多角化にも役立っていくに違いない。人材採用の最前線に立つ前出のAさんもこう語る。

「業界が30兆円産業と言われた時代しか知らない既存の社員はうまくいかないときのノウハウをもちません。リスクがつきまとう別の事業に取り組んでいくのであればなおのこと。ただ、同友会の『情報交換交流会』に参加する採用担当者のみなさんは、業界の将来ばかりではなく、当然ながら所属する企業の未来をも見据えています。ひとりでも多く優秀な人材を採用し、新しい事業プランを忌憚なく提案できるような社員に育てたい。すなわち〝社内ベンチャー〟の育成です。そのためにも若い社員たちの発言を柔軟に受け止められる組織でなければなりません」

企業が幅広い将来像を学生たちに示せれば、新規出店にこだわらずとも希望がもてる。ホール運営企業への就職希望者ではないものの、遊技機メーカーに就職すべくG&Eビジネススクールで勉強をつづける23歳の若者が編集部の取材にこう答えてくれた。

「大学を卒業後、いったんは建築関係の会社に就職しましたが、好きなパチスロに関係する仕事がしたいという思いがあきらめられず、わずか3カ月で退職しました。もちろん、この業界が以前のような勢いにないことは知っています。それでも人生は一度きり。やりたいことをやるため、今後も全力で勉強に取り組んでいくつもりです」

ホール運営企業も含め、気概ある新人の獲得には自身の可能性を存分に発揮してもらえるような環境整備が不可欠だ。社会的な業界イメージの向上はもとより、まずは新しい人材をしっかり生かせる〝組織改革〟の推進に努めたい。

※本稿は2019年12月16日付け「日刊遊技情報」に掲載した記事をweb用に編集したものを掲載しております。